「ドゥームズデイ・ブック(上・下)」

女子学生が14世紀のイギリスに送られる話ということだけ聞いて、面白そうだったので読んでみました。色々賞をとった人気作だけあってさすがに読み応え十分。主人公キヴリンとともに、僕も14世紀に飛んでいましたよ。もっとも、やっぱり中世は大変な時代でしたが。灯りがほとんどないので夜が暗い。おまけに入浴や皿洗いの習慣すらないので不衛生なことこの上なしの恐ろしさ。本当に、そんな感じだったのでしょうか? う〜ん、常識が違うなあ。わざわざ乗り込んで行ったキヴリンはすごいというか物好きというか。


タイムトラベルは何か突発的で超常的な現象によるのかと思っていましたが、実は普通に時間移動が確立された世界という設定でした。2050年では実現はちょっと難しいような気もしますが、そこはそれ。タイムパラドックスは「そもそも起こり得ない」として設定されているので、ややこしいことは考えずにすみます。


あとは著者の14世紀を書き出す様を楽しませてもらうだけ、と言いたいところでしたが、キヴリンの行った14世紀パートとともに、21世紀パートも語られていきます。最初はなんだか余分に思えましたが、これもきっちりと意味を持って並行されているのがさすがでしたね。


ただ、21世紀中盤なのに携帯電話が無いというのはかなり違和感が残っちゃいました。書かれたのが1992年だそうなので無理もないのですが、なかなか本人に電話が届かない様子は、最近ではなかなかお目にかかれないものです。「駅についたはずだから駅にかけて呼び出してもらう」といった発想そのものがむしろ懐かしかったですよ。やっぱり未来社会を書くのは難しい。それによって14世紀パートの説得力まで多少落ちちゃっているのが残念でした。


とはいえ、たしかに傑作SFでした。作者が女性だということを後書きで知って驚きましたよ。



さて、以下ネタバレで。



ペストが怖い。ブルブル。


よもやここまで残酷に、一つの村をまるきり滅ぼし去ろうとは。そしてだからこそ、キヴリンの存在もタイムパラドックスを起こすことなくありえたという悲劇。このような事象がわずか700年前に存在したという重み。後半の苦しみの増すばかりの圧倒的な迫力は、なかなか言葉に出来ないものです。


最初は「ヒロインも美少女だしアニメ化したら面白いんじゃない?」などと思っていたのですが、駄目ですね。これはちょっと見たくないです。勘弁です。結局、命を救うことが出来なかったキヴリンですが、凄絶な光景を見た彼女の、これからの人生も気になるところです。最後はちょっと含みを持たせた終わり方で、悪い想像をするとさらなる悲劇にもなるのですが、それは良いほうに考えるとします。


……ところで、結局ベイジンゲームはどこにいたんでしょうかね?