「スパイラル 〜推理の絆〜」

スパイラル―推理の絆 (1) (ガンガンコミックス)

スパイラル―推理の絆 (1) (ガンガンコミックス)

ヴァンパイア十字界」を読んで興味を覚えた城平京さん原作の一品。いや面白かったです。話の密度自体は「ヴァンパイア〜」の方が上のような気がするのですが、とにかくラストの印象度では圧倒的にこちらです。感動と寂しさといくばくかの疑問が混じりあう一種独特な余韻の深さ。ああ、そういえばAIRをプレイしたときにも似ていたかもしれません。


さて、以下ネタバレですが。



とにかく結崎ひよのですね。序盤からかなり良い感じのキャラでありましたが、どこまで作者が考えていたことやら。多分当初はラストの役割までは考慮していなかったのではないでしょうか。それでもかなり早い時点でつけられた設定なのはうかがえますが。


歩にとって彼女の裏切りは、予測はしていても相当に応えたはずであり、読者にとっても、大きな衝撃ではありました。ただ、それがある程度やわらげられていたのは作者の優しさなのかもしれませんね。もしこれが本気で意地悪な展開ならば、歩はもっと彼女に惹かれていたはずです。しかし彼が不自然なほどひよのに冷たかったことで、読者は微妙な違和感をずっと感じ続けることになり、それがラストに対する納得感を増したことになったのではないかと(あるいはそれは、清隆の最大の計算ミスだったのかもしれませんねえ。兄弟で好みが違ったということなのかもしれません)。


そしてもう一つほっとしたのは、「ひよのの演技」が終わってからも彼女の基本形がそれほど変わらなかったことですね。これがいきなり冷淡な口調になったりしたら、さすがに辛いのですが、どうやら演じていたのは、歩に対する信頼と無条件の好意、あと多少高校生っぽい言動をするということくらいだったようです。役割につい<ても知らされたのは最後ということで、主体的でないのは救いでした。



最初にも書きましたが、ラストシーンの切ない余韻は近頃読んだ物語の中でもトップクラスのものでした。さすがは城平京さんです。基本的構造が設定ばらしにあるのは「ヴァンパイア〜」同様ですが、それだけでは終わらない物語の強さを持つのも同様でした。素晴らしいです。


……ただ、タイトルで損をしてそうなとこまで一緒なような。このタイトルはどう見ても普通の推理ものであり、特に1巻だけ見るとちょっと凡庸に見えてしまいますよ。