「ローマ人の物語 15」

ローマ人の物語 (15) ローマ世界の終焉

ローマ人の物語 (15) ローマ世界の終焉

塩野七生さん渾身のローマ史、全15巻完結。ローマ1000年の歴史に感無量です。


もはや蛮族の侵攻になすすべも無く、かつて磐石を誇った防衛線は軽々と乗り越えられ、荒らされていく領土。皇帝は無気力で、ローマ市民に闘う力も無く、帝国は滅びていきます。かろうじて奮闘する将軍もいますが、それだけで大きな歴史の力に抗うことは出来ず。一度坂道を転げ落ちだすと、どうにもならないという辛さを味わうかのよう。もしこの時期にカエサルがいたらどうだったんでしょうね。彼ほどの天才ならば、それでも何とかしてみせたのでしょうか。


それにしても、最後は意外なほどにあっけないものでした。傭兵隊長オドケアルによって皇帝が廃され、それで終わり。著者も書いていますがカルタゴのように悲壮な「最後の決戦」があったわけでもなく、市民としては「混乱の中に何となく皇帝がいなくなった」くらいの感覚だったのでしょうか。もっとも塩野さん的に言えば、ローマとはローマ文明・ローマ精神によって区別されるべきであり、皇帝がいるかいないかということは大した問題ではないのかもしれません。正当ローマを受け継ぎ、なお1000年存続した東ローマ帝国への著者の評価が低そうなところを見ても、そんなところがうかがえます。個人的には東ローマ帝国も歴史的に興味深い存在だと思うんですけどね。


ローマが滅び、そして中世が始まります。まあ「蛮族」側からすれば別の言い分もあるでしょうが、素人的にはどう見ても文明の衰退に他ならず、一旦進歩したものも場合によっては逆戻りしてしまうこともあるのだという、歴史的事象が重いです。「なぜローマは滅んだのか」 昔から多くの人が考えてきたというのは良く分かりますね。


あくまで「物語」なので歴史的には不正確なところもあるという批判もありますが、それでも「ローマ」という存在を身近にさせ、生き生きと書き出したその功績は非常に大きいものがあると思います。塩野さんも書いてましたが、キリスト教関連の作品だとローマ帝国って悪役にされがちですからね。そうした偏見を払い、その偉大さを認識させてくれました。思えば僕がこのシリーズを読み出してからでも10年間になります。当時の既刊分を読み終えてからは毎年新刊が出る11〜12月が楽しみだったものでした。もうそれも無いと思うと寂しいですね。