「論文捏造」

論文捏造 (中公新書ラクレ)

論文捏造 (中公新書ラクレ)

超伝導の革新的発見を次々と重ね、若くして科学界のスターになったアメリカ・ベル研究所のシェーン。しかしそれは全てが捏造だった。近年起きた科学界の大事件を丹念に追い、そこに潜む構造的問題を探った一冊です(ちなみに、韓国・黄教授のES細胞捏造事件はこの後の話です)。もとはNHKの番組として放映され、海外のコンクールでも最高賞を取ったらしいです。本になってもその分かりやすさと丁寧さは健在で、高評価もうなずけました。


企業がスポンサーとなることも多く、競争の激しい現代の学会。そのなかで一人の「天才」に多大な期待をかけてしまう構図。「共同研究」といっても、他人のやっていることには口を出さない文化。チェック機能を欠いたサイエンス誌。どこをとってもふむふむと興味深い話でした。「学者同士の信頼」それ自体は素晴らしいことだと思うんですが、悲しいかなこのような事件が起きるともろいと思わされます。また驚くのは、研究リーダーの立場であったバトログ氏の説明。シェーンの不正について自分に責任はないというのは、いくら「信頼」といっても変だと言わざるを得ないでしょう。共謀ではなかったにしろ、気づく責任があったはずではないかと感じます。そもそも実験結果である超伝導の成功場面を一度も目にしていないで平気というのが信じられませんしね。なお、本書ではバトログ氏に対しても丁寧なインタビューをしていて、氏の、ある意味誠実な人柄も浮き上がらせています。このあたりも素晴らしいですね。


それにしても、シェーン本人は何を考えて捏造発表をし続けたのでしょうか。普通に考えれば、発覚することは分かりきっていたはずです。引っ込みがつかなくなったのか、自分でも実験成功を信じこんでしまったのか。不思議であり、悲しい話です。



それにしてもNHKは良い番組を作りますねえ。こういう取材を見ますと、安易にNHK解体とか言うものではないなと思いますよ。