「エコノミストは信用できるか」

エコノミストは信用できるか (文春新書)

エコノミストは信用できるか (文春新書)

バブル崩壊からこっち、「失われた10年間」において一番にぎわったのがエコノミストの論壇だったのかもしれません。とにかく多種多様、百花繚乱な「日本経済の処方箋」が新聞や書店に並んだものでした。しかしこうなると一体誰の言うことを信じればよいのか、素人にはさっぱり分からなくなってきます。本書はそういった状況に対応すべく、各エコノミストの発言を追ってその信頼度を評価した一冊。3年ほど前の出版ですが、大胆な企画で当時は結構話題になってた記憶があります。


何より驚いたのは、少なからぬエコノミストが実に簡単に自説をひっくり返していることです。あるときには「財政出動が必要だ」ともっともらしく主張するも、政府の財政政策があまり効果がないと見るや、「財政出動はダメだ、構造改革が大事だ」と言いだす。あまつさえ自分の過去は棚に上げて「政府当局は間違っていた」とくる。その無責任ぶりには読んでいて頭がくらくらしてしまいました。経済は生き物なので「君子は豹変す」というのもありかもしれませんが、少なくとも自説変更の事実は明示しておかないと、単なる変節というものでしょう。


本書のタイトルに照らした形で言えば、「エコノミストは信用できない」という気持ちで一杯になってしまいますが、実際にはそういう人たちの主張が世論を動かし政府を動かすわけですから、笑い事ではありません。そういう実態に光を当てた点で、本書の意義は大きかったのではないでしょうか。


出版から3年、また状況が変わっている中で読みましたので、当時の評価とまた違うところも面白かったです。中立的であろうとする著者自身、小泉政権での構造改革路線、IT革命による生産性アップに懐疑的な節がありますが、その後曲がりなりにも景気回復し、ITもバブルこそ弾けましたがジワジワ成長していってますからね。ITバブルに警鐘を鳴らしたとして評価の高かった武者陵司氏も、その後の株高を見事に外しちゃいましたしね。まあ、一貫して悲観論というのはコロコロ変わるよりはマシなのかもしれませんが……。なお本書で評価が低いのは中谷巌氏、竹中平蔵氏、森永卓郎氏らでした。


あと個人でないので採点はされていませんが、本書では日経新聞の右往左往ぶりも批判的にとりあげています。僕も日経新聞は愛読していますが、あまり信用はしていません。半ば強引にその時流の主張を押し通そうとするところが見受けられますし(今で言うと「構造改革」「規制緩和」「官から民へ」あたりが好きそうです)。日経新聞の影響力は大きいのですから、しっかりしてもらいたいものです。


執筆にあたり多数の過去発言をたどっていた著者は苦労だったことだろうなと思いますが、この意味では今後ネット社会には期待が持てるかもしれません。過去の発言はデジタルで記録され比較できますから、前後に矛盾があればすぐに突っ込まれることになるんじゃないでしょうか。