「電波男」

電波男

電波男

立ち読み流し読みにつき深くは読み込んでいないことをはじめにお断りいたしますが……とにかく「すごい本が出たなあ」というのが何よりの感想です。「恋愛資本主義」に反旗を掲げ、萌えの世界に救いを提唱するオタク一代魂の叫び。サイト「しろはた」でもおなじみの、著者本田透さんの文章はいつものごとく美少女ゲームから哲学まで幅広い知識による絶妙な引用が駆使され、情熱とネタが高度に入り混じって勢いがあります。「オタクは勝ち組」と言い切ってしまうその主張とあいまって、すでにアジテーションの域に達していると言えましょう。
かつてマルクスは資本主義経済を「資本家による労働者の搾取」と喝破・定義し、プロレタリアを将来の革命者として位置づけて世界に大きな影響を与えました。大げさに言うなれば本書は現代の恋愛資本主義に対するオタク共産党宣言なのかもしれません。まあ共産主義の「労働者=善、資本家=悪」という単純二元論同様、萌えの優越説にも無理がある感は否めませんが、そこはそれ。ある程度誇張し、単純にした方が世に訴えるというものです。
近年、フェミニズムとか「負け犬」論争とかで女性の側からの社会に対する申し立ては多々行われてきましたが、男性の側から、それもオタクと称される側からのこれほど真摯な異議申し立てというのはかつて無かったのではないでしょうか。時に揶揄され、非難されながらも沈黙しているだけだったかのようなオタク達。その沈黙を打ち破ったというだけでエポックメイキングな一冊であるように感じられます。一見ふざけているような体裁ですが、一種の社会学として、哲学として十分に論評されるべき論でありましょう。残念ながら今のところどうも論壇で話題になっているという話は聞きませんが、オタクの内輪で話題になっているだけでは寂しすぎます。賛否ともあれ、世に無視されないことを願います。



P・S すごい本だと思うのですが、タイトルだけはちょっとどうかなと。いかにも時事的パロディ本に見えてしまいます。まあもしかしたら10年後に名前が残っているのは「電車男」ではなく「電波男」なのかもしれませんけどね。


参考:本田透 著“電波男”感想まとめwiki