はるのあしおと日記 その6

総合感想 シナリオ編

どのルートでもそれぞれに奥深く、楽しませてくれたはるあし。「外れの無い」手堅さは嬉しかったです。振り返ってみて感じるのは、結局この作品は樹の物語だったんだなあということですね。もちろん美少女ゲームとしてヒロインの魅力もしっかりと描かれてはいましたし、双方絡んでの物語ではありますが、それでも一言でいえば「樹が成長していく話」ということに尽きると思います。

憧れを抱いて出た東京で失恋し、就職もままならず、焦りと劣等感にさいなまれながら帰郷した樹。目標を失い、無気力になってしまう青春時代の重苦しさが読んでいてよく伝わってきました。それだけに、時間の流れと人との出会いによって、再び前に歩みだすラストの姿はなにより良かったです。個人的には、もしこれを3年前に読んでいたら今以上にクリティカルヒット受けてたのでないかなと。まあこの辺は人それぞれでありましょうが。

「良い先生にだってなれるよ」

半ば意地とやけで受けることになった臨時教師の仕事。本来は樹にとって願っても無いチャンスであり、もっと張り切ったり喜んだりしても良いはずなのですが、あまりそんな描写はありません。智夏シナリオで伯父に向かって語るように、結局このときの樹にとっては「夢」だったはずの教師という仕事さえ、現実の目標としては捉えきれていなかったということなのでしょう。このあたりもしっかり書かれているなと思わされるところでした。

以下、個別キャラクターの感想で追加するところをあげますと、まず和については設定どおり頭のいい子だったなと。樹に対する言葉はビシビシと厳しくも正当すぎて反論できないものばかり。言われても嫌な気持ちにならないというのは人徳ですかね。樹との付き合い方も近づいたり離れたりと紆余曲折でしたが、根が聡明なだけに理性と感情の間で揺れる和の辛さが良く伝わってきました。印象に残っているのは、樹との仲を噂されて半ば逆上しながらも、ギリギリのところで言葉を選んで回避する場面。彼女らしかったです。
ゆづきについては、やっぱり彼女がなぜああいう性格に育ったかという背景をもっと見たかったです。でももしかしたら、あえて大仰に過去を語らず、視点を現在と未来に向けるという意味合いもあったのかもしれません。ネットの感想ではなかなか好評なようですし、僕の見方が浅かったかもしれないのでまたいつか読み直したいです。彼女のエキセントリックな性格は魅力ですし。……ただ、このシナリオの樹はちょっと問題教師過ぎですけどね。
悠はラストの見せ方が上手かったと思いますが、樹に対する依存心が変に強すぎたような気も。あの性格ならたくさんの友達と和気あいあいで問題ないように思えました。
智夏については特に追加することは無しとして、他の方々。まず教頭代理こと楠木先生ですが、……専用ルート欲しかったですねえ。あまりに魅力的なキャラだけに惜しいです。ちょっと釣り合わないのかもしれませんが、先輩教師としてバリバリ頑張っている彼女は、樹からしたら好感を抱いてもおかしくない位置にいると思うのですけど。結局そういう相性ではなかったということなんでしょうか。
白波瀬さん。魅力的な人ですが出番が中途半端だったような感があります。ゆづきシナリオのラストで元気そうだったので救われますが、和シナリオにおけるあの電話は結局なにがしたかったんだろうかとやや疑問でした。結婚生活の様子が気になりますが、一切触れられないのも残念。そういえばいつまでも名字が「白波瀬」だったりしますが、これはあまり深い意味はないのかな……。もし機会があるのなら、彼女と樹の大学時代の様子や、彼女のシナリオも見てみたいです。ファンディスクなんかであったら良いなと思いました(……余談ですが、白波瀬って実在する名字なんですね。検索してみてちょっと驚きました)。