「ブッダとそのダンマ」

ブッダとそのダンマ (光文社新書)

ブッダとそのダンマ (光文社新書)

うん、これは面白かったです。教えの本に対して「面白い」という表現はちょっと違うかもしれませんが、これだけ読んでいて純真素朴に味わえる仏教本というのは初めてでした。大げさに言えば、心に染み渡るような気がしましたね。
この本の特徴はブッダの教えを徹頭徹尾合理的、社会的なものとして捉えている点でしょう。これが他の本ですと、たとえば悟りがどうとか禅がどうとか、説明されても結局なんなのか良く分からなくなったりするのですが、本書ではそういうことがありません。ただ平易でシンプルな教えが書かれるだけです。いわく、「心を清らかにし、欲望にとらわれず、嘘をつかず、他人を中傷せず、争いを起こさず、常に智慧を磨くことが大事である」と。贅沢に浸るのはダメだが貧乏は不幸の元であり、生命を殺すのは避けるべきだが肉食の絶対禁止まではしない、というあたりもバランス(中庸)を旨とする仏教らしいです。また、ブッダは死後の世界がどうとか宇宙の仕組みがどうとかにあまりこだわらなかったと言われていますが、この本ではそのあたりも強調されて、あくまで現世の苦しみを克服するための教えであると定義されています。もちろん絶対的な神様といった存在も出てきません。このあたりも現代の読者としては明快で分かりやすかったです。
解説によると筆者のアンベードカルさんはインドで仏教復興に尽くした人物らしいですが、氏の仏教理解やこの本の内容については「真の仏教ではない」との批判も強いそうです。でもまあ、日本でも仏教の流派はいくつもあることですし、たとえ元の教えとは違うにしても、内容は良いこと言っているのでいいんじゃないかと思うのですけどね。翻訳もうまくて読みやすいです。巻末の解説は熱いというかちょっと興奮しすぎな気もしますが(苦笑)。
もともと仏教系の話が好きということもありますが、結構影響を受けそうな一冊でした。自分もしっかりと心を磨いて生きていこうと思わされました。どこまで出来るかはともかくですが。


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