「人類最高の発明アルファベット」

人類最高の発明アルファベット

人類最高の発明アルファベット

欧米圏を中心に、世界に広がるアルファベット体系の歴史と性質について、面白くまとめられた一冊でした。どこで生まれ、どう広がっていったのか。なにぶん昔のことなので確定しきれていない部分も多いようなのですが、だからこそ話にはロマンがあります。アルファベットに絡んで語られる、エジプトの古代王朝の遺跡話ですとか、モーセ出エジプト記の実相ですとか、神話と歴史の狭間に存在するエピソードが魅力的でした。
著者はタイトルからも分かるようにアルファベットという文字を高く評価しているので、漢字文化圏に属する者としてはちょっと悔しい気もしますが、この本はアルファベット覇権主義みたいな雰囲気はありません。多様な文字体系の価値やアルファベットの持つ欠点(綴りの不規則性など)も認めたうえで、なお融通無碍に勢力を広げていくアルファベットのパワーというものについて語っています。またラテンアルファベットに限らず、朝鮮アルファベット(=ハングルですね)も高く評価していました。残念なのは日本の文字体系について語られていないこと。漢字かな混じり文というのは古代シュメール人に勝るとも劣らない複雑さがあると思われるだけに、話題の対象としては面白いと思うのですけどね。
訳者の金原瑞人さんは、ラノベ読本にも出ていた秋山瑞人さんのゼミの先生だった人。さすがに読みやすい訳文でした。


余談
日本語の表記としては「カナモジカイ」のような主張をされている会もあるわけですが、もう漢語和語の混合は完全に定着しちゃっているわけですから、急にどうこうしようというのは難しいでしょうね。結局当分は現状の漢字かな混じり文でいくのではないでしょうか。多少面倒なところはあっても、それなりに愛着もありますし。