「メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故」

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

世界を震撼させた福島第一原発事故についての、渾身のルポタージュ。あの地震の起こった日から、事故の発生と拡大、その後の東電の処理をめぐっての悶着が綿密な取材によってくっきりと書きだされていきます。政府、官僚、東電は何を考え、どう動いたのか。


全編にわたって冷静な筆致の中にも、著者の強い問題意識が伝わってくる一冊でした。それは、いかに責任者に知識と知恵が欠けていたかという嘆きに他なりません。


個人的には、なにぶん未曾有の大災害ですから、政府初動が混乱したのはやむを得ない部分もあると思います。首相や大臣は原子力の専門家ではないですしね。しかし、保安院なり原子力安全委員会なり東電の担当者なりは適切な助言・対策を打ち出さねばならなかったはずでした。それが「想定外」の事態に右往左往するばかりの情けなさ。そもそも想定外であったことからおかしいという指摘はもはや言うまでもありませんが。


事後の東電処置・エネルギー政策路線にしても、旧来の権益と方向性の維持に汲々とするだけの経産省や金融機関の姿が情けなく目に映ります。それにしても、政権を追い落とそうとする官僚の策謀がドロドロしていて恐ろしいことでした。今回に限らず、常にこういう権力闘争は繰り返されているのでしょうねえ。


事故当時は日々のニュースを追うだけで精一杯でしたが、こうして時をおいて読むことで、一つ流れが飲み込めたような気がします。とはいえ、今なお福島原発は小康状態で収まっているだけで、事故は完全に収束したわけではありません。安倍政権は原発の再稼働に積極的なようですが、ハード的な安全面だけでなく、こうした人の面での安全性は本当に改善されているのでしょうか? 現状でははなはだ不安としか思えないのですけどね……。