ひまわり外伝 「こもれび」&「かげろう」

面白い面白い。ゲームではない、小説としてのごぉさんの筆力はどんなものかと思っていましたが、やっぱりひまわりの世界はすごい面白いです。素晴らしく楽しく、と同時に、ひまわりの物語のシビアさ、悲しさをあらためて突き付けられるお話でもありました。ネタばれしつつ感想です。


「こもれび」
東条家の令嬢にして、かつての西園寺明の許嫁であった女性、東条紅葉。彼女と天文部三人組との交流を書いた青春物語。ゲーム本編における明香里の回想では出てこなかったシーンだけに、矛盾が生じるのではないかと疑問もありましたが、そんなことはありませんでしたね。紅葉はこんな外伝だけに登場するには惜しいキャラ。


さわやかな物語だけに終わらないのは、話の裏に見え隠れする研究の存在。そして何より明香里の行動ですよねえ。紅葉と明香里は友人になれたと思っていただけに、紅葉に切りつけた明香里の行動は衝撃的で、辛かったです。明香里の回想に紅葉のことが出てこなかったのは、思い出したくなかったからなのかもしれませんねえ。せめて謝って、和解してほしかった。アクアが明香里のことを「弱い人」みたいに評していて、記憶を受け継いでいるにもかかわらず、あまり好意的にはとらえていませんでしたが、こういうエピソードがあるとそれも分かる気がしますね。いや、嫌いじゃないんですよ、明香里。善良でかわいらしい人であることは間違いないと思うんですけどね。それだけにさびしいなあ。せめてラストで紅葉が願っているように、また4人で笑いあえる日が来ますように。



「かげろう」
……と、思っていたのに4人で笑いあえる日なんてありませんでしたよ、という厳しい現実から始まる続編なのでした。あんまりだ。


「こもれび」から10年超。元自衛官の島崎道行視点で書かれる、あのスペースシップ事故直前の物語。心を病み、道行のことを「大吾」と呼び慕う紅葉の姿が、前作を読んだばかりだけに痛々しいですが、そもそも紅葉と大吾がいつの間にそんな仲になったのかという疑問が膨らむところではあります。大吾の女たらしぶりは紅葉をも陥落してしまったんでしょうか。実は、最後まで紅葉が銀河たちの母親だとは気づいてませんでした。大吾の数多くいるであろう恋人のうちの一人かと思っちゃってましたよ。そうかあ、紅葉が銀河と秋桜の母親だったのか。彼女を放って浮気と宇宙に明け暮れる大吾はひどいなあ。あと結局再会しなかった明香里も。アクアは紅葉に会う機会があったら、明香里に代わって謝っとくと良いです。


途中はミステリ小説としても十分に読みごたえのある作りで、読み進めてしまうのが惜しくなるくらいでしたが、やはりひまわりファンとして気になるのは「ルナウィルスの記憶」の行方。紅葉はこの時点で感染済。記憶障害も本来のアリス症候群+ルナウィルスの作用ということなんでしょう。確か銀河は大吾の死がきっかけと語っていた気もするんですが、それ以前から病んでしまっていたということで、ちょっと食い違いがありますかね。それはともかく、本来の人格とは別のルナウィルス的記憶が彼女にも発現しているようです。それはアオイにもあらわれ、時を進めて秋桜とひまわりにもうつる。どうやら記憶は共有されているもののようですね。人類との生存競争。こういう設定を見せられると、やっぱり続編が読みたくてたまらなくなります。


あと、知りませんでしたが、本作はエイプリルフールネタであったというムービーに対応してるんですね(設定的にどこまで同一なのかは分かりませんが)。合わせて見るとなお面白かったです。