「「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する」

『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)

『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)

ドストエフスキーの名著「カラマーゾフの兄弟」の新訳を世に問うた気鋭の著者による話題の一冊です。


カラマーゾフの兄弟は学生時代に一応読んだものの例によって内容はほとんど忘れ去ったような感じなのですが、かの作品はそもそも2部作構想だったとか。それも結構常識的に、ドストエフスキーの存命中から言われていたことだったとは、寡聞にしてさっぱり知りませんでした。そうか、アリョーシャはどうも地味だと思っていたら、本来第二部でもっと活躍する予定だったのかも。


もちろんカラマーゾフの兄弟は、単体でも十分完結するような終わり方になっています。しかしながら、中には第二部の伏線であろうという部分も結構あるということ。著者は翻訳をしただけあって、さすがにその辺の読み込み方はプロ。最後になって突然沢山出て来る新キャラや、思わせぶりなのに回収されなかったエピソードやセリフをもとに、第二部の構造を「空想」していきます。


何よりも研究者らしいのは第一部の綿密な構造をしっかり分析して、それと第二部をシンクロさせるような形を提示していく点ですが、ここはドストエフスキーが文豪の文豪たるところを素人にも実感させるような個所でしたね。まるで交響曲のように緻密に組み立てられた建造物、それがカラマーゾフの兄弟だったのかと。第二部に対する著者の予想そのものよりも、まず第一部のすごさに目からうろこが落ちます。そうか、作家というのはそこまで練りこんで作品を作るものなのかあ。


これはもう一度原作を読んでみないといけませんかねえ。著者の訳も良いかも。