「ローマ人の物語14 キリストの勝利」

ローマ人の物語 (14) キリストの勝利

ローマ人の物語 (14) キリストの勝利

塩野七生先生渾身の大作シリーズもいよいよ佳境。弱まっていきながらも、かろうじて威容を保っている4世紀のローマ帝国の姿が書かれます。この時期の皇帝は特に無能であったわけでもやる気が無かったわけでもなく、安定期の帝国でしたらそれなりに務めたことと思うのですが、たび重なる異民族の侵入の前にはその努力もたいした効果は見せません。さらに国内には腐敗した宦官が(……宦官って、ローマ史にも出てくるんですねえ)、増大する官僚組織が、そして何よりこの巻のサブタイトルともなっているキリスト教の浸透があるのでした。


少なくともこのシリーズにおいて、塩野さんはあまりキリスト教に好意的ではないですね。おそらくそれがローマ的な多神教の寛容と相容れないがためなのでしょう。この辺は日本人的として納得しやすいです。もっとも、キリスト教がローマ精神を破壊したのではなく、ローマ精神が失われていったからこそキリスト教が広まったのでしょう。この辺に、ローマ帝国は「崩壊」したのではなく「溶解」していったのだ、という著者の思いがあります。


そんな中、一時的にキリスト教優遇を撤廃し、「背教者」と称されることになる皇帝ユリアヌスのエピソードは興味深かったです。本書で紹介されている小説にもあたってみたいと思いました。