「荒野の恋」

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

僕としては珍しく作者買い。「お、桜庭さんの新作が出たのか、買わないと」という感じでした。何しろ「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」や「推定少女」は結構衝撃的なものがありましたからねえ。そう感じたのは僕だけではないらしく、ここも「砂糖菓子〜」の検索で来られる方が結構いらっしゃいます。何かブレイク中というか、旬を感じさせらる存在。見逃せません。
あとがきによると、今までは「生きることに不器用な子」が書かれたのに対し、今回は「恋することに不器用な少年少女」のお話ということ。なるほど。荒野というのは何かと思ったら主人公の名前なんですね。女の子で荒野という名前はかなり珍しいですが、父親が変な小説家だけに説得力はあります。お話の内容は上記2作ほどエキセントリックな設定がないためやや地味目ですが、その分作者の本領であろう少女のみずみずしい感性が存分に伝わってきました。といって地味なだけのお話ではなく、読んでいてドキドキしたりちょっと驚いたりするような緩急も十分。父親、新しい母親、父の愛人、家政婦、中学の友人、そして鎌倉の日々。本当に上手い。感嘆します。これでもうちょっと男の子の書き方が上手ければ(……なんて生意気なようですが)すごい作家になるのではないでしょうか(そもそも「砂糖菓子〜」だって騒がれているのがライトノベル界隈だけというのがもったいないです)。
満足の一冊でした。3部作ということで次回は秋とのことですが、するとラストは冬か来春か……。購入は既に決定済み、待ち遠しいばかりです。