その16 総合感想

○シナリオ
なんといってもこの作品の肝。雛見沢を舞台に織り成される物語。テキスト自体は決してすごくうまいというほどではなく、特に途中1人称と3人称がコロコロ入れ替わるのには閉口しましたが、それでも実に読ませてくれます。50時間以上プレイしても飽きが来ない作りとキャラクターの魅力は出色でした。


パラレルワールドの積み重ねを前提として少しづつプレイヤーに情報を与えていくのは上手い作りですね。しかもそれがメタ的ループ物の要素をも兼ね備えようとは、驚かされました。主人公の圭一が当初余り賢明なキャラクターとしては書かれなかったのに、終盤にはずいぶん変わっていくというのも特徴的でした。


問題の連続殺人事件については雛見沢症候群という病気を設定することで、おおむね納得できるものになっていたと思います。黒幕としての鷹野と山狗ですが、保有力的には惨劇の主犯として充分な反面、いくらなんでも自衛隊(のごく少数ではありますが)はあんなことしないだろうというのはありましたね。このへん、自衛隊とははぐれた私的暴力集団にしておいた方が良かったのではないかという気もしました。まあそれだとまた色々設定難しいかもしれませんが。


最初は理不尽なホラーものかと思わされ、実際そうなのですが、次第に仲間達との友情ものになっていく、この移り変わりが面白いです。後半、仲間達との絆と信頼を前面に打ち出したその熱さ、これこそがひぐらしの真骨頂だったのでしょうね。予想よりもずっと真っ直ぐなお話でした。


個別に言うと、やっぱり罪滅し編皆殺し編の出来栄えが素晴らしかったです。この2編はひぐらしの中の白眉でありました。あとインパクトがあったのはやっぱり最初の鬼隠し編ですかね。レナが怖かった……。


○絵
原作とは大きく絵柄が変わったわけですが、アニメ版と近い雰囲気だったので特に問題なくなじめました。そもそも原作未プレイですしね。主要キャラの立ち絵は問題ないのですが、もうちょっと他のキャラクターの絵も欲しいところでした。圭一の両親とかお魎とかの絵がないのは残念なものです。あと一枚絵もいささか数不足かと。もっと力を入れて欲しいところでしたが、容量か時間か予算の関係なのでしょうかねえ。


○音楽・声
BGMは中の上くらいかと。どうも原作ファンの人からは批判されやすいところのようですが、少なくとも悪くは無いです。長時間聞くこともありますが、次第に好きになっていきますよ。「大逆テン!?」「朝来帰の空」「神楽舞」「DEAD END Synphony」「月光蝶」「SISTER」「綿流し」「朱紅の宴」「最後のサイコロ」等良く聴いています。


そして素晴らしいのが歌と声。声は説明不要ですので置いときまして、4曲用意された歌はどれも名曲です。「嘆きノ森」「escape」「コンプレックス・イマージュ」「friend」。特に「コンプレックス・イマージュ」は他の曲とはがらりと違った雰囲気なのに、ひぐらしにぴったりという逸品でした。せっかくなのでアニメ2期でもどっかに挿入して欲しいなあ。


サントラは初回特典でついてきましたが、通常販売はされないのでしょうかね? 少なくとも今のところ動きはなさそうでありますが。


○システム
良いところと悪いところがくっきり分かれていて評価に困ってしまう部分です。


まず第一印象のところでも書きましたが、基本文章まわりは非常に優秀だと思います。PS2版にありがちなテンポの悪さは最小限に抑えられ、文章はテキパキ、スキップは軽快。声も一文の中でも分けてしゃべってくれる工夫があり、ストレスなくプレイできました。セーブも早いです。ただ、オートセーブだけに頼っているとプレイ開始後にTips見た場合もセーブされてしまう欠点がありますので、その点もう一工夫欲しかったですね。


一方最大限に減点対象となるのが、ルート固定では無かったことです。無理に選択肢を入れずに原作どおりの順番に固定で何の問題もなかったような気もするのですが、何でそうしなかったのでしょうかねえ。不思議。多分この点だけでひぐらし祭の評価は1割ぐらい減少しているように思うのですが。


○総合
素晴らしく面白い作品でした。個々に見ると欠点もないわけではなく、特にいきなり盥回し編に入れるルート構成はどうかと思いましたが、総じて期待以上に楽しめました。


ちょっと残念なのは原作ファンからは結構不評であるらしいことで、祭から入ったものとしては寂しい気持ちです。原作未プレイなので論評は出来ませんが、おそらく実際に原作の方が上回っている点もあるのでしょう。でも同時に「最初にプレイしたものが一番」な心情もやっぱり働いていると思うんですよね。まあ自分がなんとなく祭を擁護したくなってしまうのもその心理なわけですが。このあたりは特に論じられる澪尽し編と祭囃し編の相違について、祭囃し編をアニメで見たらまた感想を書きたいと思ったりします。


あと、クリア後に何かおまけ要素が欲しかったなあ。もういっそ今回入らなかった祭囃し編やらなにやらも含めて、ファンディスク的第2段を出してみたらどうでしょうか。祭の売れ行きを考えれば結構可能そうだと思うのですが。