「職業治験」

職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々

職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々


「治験」。それは新薬の人体に対する影響をはかる、いうなれば人体実験のこと。薬を世に販売するためには絶対必要な段階ですが、「楽して稼げるおいしいバイト」と噂されることもあります。果たしてその実情はどうなっているのか。本書は、実に7年間治験収入で生活し、「プロ治験者」を自称する著者による興味深いレポートです。


まず、治験というのは建前上は「ボランティア」ということになっているそうです。ただ、「負担軽減費」として事実上の給与が支給され、それがなかなかの額。内容や病院によっても異なりますが、本書の例では「20泊21日で53万円」というケースが紹介されています。3週間ほど入院して薬を飲んでいれば53万円。なるほど、これはなかなかおいしい話に感じられますね。もちろん、薬の副作用の危険性も考えられますが、事前に動物実験も繰り返していますし、何しろ入院管理下なので滅多なことはそうそうおこらなさそうです。定期的な採血はきつそうなものの、暇な時間は読書にネットにゲームし放題。ちょっと羨ましくなる環境ですね。


ということで、どこの世界にも目をつけている人は目をつけているということか、現場には著者のような「プロの治験者」もちょこちょこいるとのこと。ただ、どうも治験に集まってくるような人は著者も含めた「働きたくない怠け者」が多いとのこと。読んだ限りでも、どんよりとした、あまり近づきたいような雰囲気は伝わるところです。ふむぅ……。著者自身も、違反すれすれに住民票を入れ替えたり、禁煙と言われているのにタバコを吸っていくなど、なかなかの不真面目ぶりを告白してくれています。さらに、質の悪い病院だと治験者に対する態度も待遇もひどいところがあるとか。夢の新薬開発の舞台裏がこれでは悲しくなってしまいますね。


ということで、楽に稼げる治験の世界にハマり込んでいった著者。しかし、やはり年をとるに連れて参加できる案件も減り、厳しくなってしまうとか。職業というにはあまりにも曖昧な治験という収入に、将来性や世間の目も気になるところ。しかし、それでもなお著者はプロ治験者の道を歩み続けていくのでした。それだけ新薬に貢献してくれる、ということではありますが、ちょっと先行きが心配になってしまうラストではありましたよ(大きなお世話でしょうが)。あ、本書が売れればよいのか。


治験というなかなか見られない世界、面白く読ませてもらいました。でも自分だったら、仮に仕事がなくても参加は遠慮するかなあ。採血いやだ(そこかい)。