「世界はなぜ「ある」のか? 実存をめぐる科学・哲学的探索」

世界はなぜ「ある」のか?: 実存をめぐる科学・哲学的探索

世界はなぜ「ある」のか?: 実存をめぐる科学・哲学的探索


連休でそこそこ時間があって、色々やりたいことがあるのにもかかわらず、結局時間リソースを予定以上に読書に割り当ててしまう。時間があるときに何をするかというのは、その人の本質的な趣向を示すものなのかもなあ、などと思ったりします。


で、本書。「なぜ世界はあるのか」という大胆かつ根本的な哲学的・科学的な問いを精力的に探求していく一冊。これが大変面白かった。タイトル的に期待していたとおりでした。


「いったい何でこの宇宙は存在するんだろうか? 別に最初から何もなくても良かったはずなのに」


ご多分に漏れず、僕も高校生くらいの時にこの疑問に行き当たり、なんとも虚無的な、茫漠とした感触に囚われたものです。なんといっても、最初から「無」であったのなら、そもそも存在という概念すら無いわけですからね。


著者は自身のみでこの答えを出そうとするのではなく、様々な人物へのインタビューを重ねることで問題の輪郭を描き出していきます。哲学者、神学者、物理学者。日本ではキリスト教的な神学論はいまいち理解し難いですが、ともあれ、色々な考え方が刺激的で興味深い。単純に量子空間の真空のゆらぎで説明するくらいなら分かりますが、「「善」という価値があるから世の中が生まれる」という価値支配説には驚かされました(ちょっと信じがたいですが)。また、現代の学者からプラトンイデア説やピタゴラス的な意見すら登場しようとは! いかにこの問いが捉えにくく、錯綜したものかと思わされます。


当然といえば当然のことですが、本書でこれだという結論は出ません。それでも、大勢の頭の良い人達がこの問題と格闘しているということが伝わると、それだけでも心強いような、嬉しいような気持ちになります。


さてしかし、本書からちょっと離れてあらためて考えますに、本当に世界はなぜあるのでしょうか。「無」から「有」が生じるというのは、「無」の定義上からしてもありえないように思います。何かが生じる可能性があるのならそれは「無」じゃないじゃないかと。じゃあ最初から世界は存在するように存在していたのか。でもそれではなんの答えにもならない。それとも、世界が存在しているという認識こそが実は幻なのか。でも、「ここ」に何かが存在することは疑い得ないと思うんですよねえ。


それはもしかしたら、人間の知性では到達できない領域なのかもしれません。でも人類は問い続けるのでしょう。僕もまた、もう少し考えてみたくなりましたよ。