「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

その原理主義と残虐さで世界を震撼させている「イスラム国」。彼らは一体何者なのかというルーツと目的に切り込んだ一冊です。僕としては、イスラム国というのはいつのに間やら出てきて、いつの間にやら一大勢力になっていた集団、という程度の知識しかなかったので、色々勉強になりました。


組織のトップであるバグダディがかつてアメリカ軍に拘束され、5年間収容所にいたということ。中東は各国の代理戦争の場であり、その中をバグダディがたくみに動いて勢力を拡大していったこと。そして、9.11テロで世界に名を轟かせたアルカイダが退潮する中、新たな「強い勢力」として台頭したこと。


あのアルカイダを反面教師にしているというのは興味深い指摘でした。なるほど、アルカイダアメリカにテロを仕掛けましたが、逆に、テロ以上のことはできていません。はるか遠くの敵を散発的に攻撃するだけの組織になっています。そうではなく、イスラム国は地元に勢力を拡大し、領土的支配を実現しています。この点が両者の最大の違いであると著者は、そしてイスラム国自らも認識しているようです。


本書がISILではなく、イスラム国という用語を使用するのも、単なるテロ組織にとどまらない、「国を作る」という欲求こそがイスラム国の一大特徴であると見ているからです。実際、イスラム国は支配下に置いた地域の電気水道などのインフラをそれなりに整備し、また、地元住民の経済ネットワークも活かすなど、行政手腕を見せているといいます。暴力だけがとりえの組織ではないようです。


彼らの最大の目標、それは「カリフ制国家の再興」であると著者は言います。再興と言っても、実際上は新しい国家を1から作ることを目論んでいるようなものであり、言わば「理想国家の設立」(彼らにとっての、ですが)を掲げているわけです。この目標は、確かに一部の人達にとって魅力的でしょう。現代社会でこんなロマン的な大義はそうそうありません。この大義に惹かれて人が集まる、また、大義とは関係なく、単に強いところで暴れられそうだからとならず者が集まる。こうしてイスラム国は勢力を拡大してきたわけです。


著者は、タイトルにもあるように、イスラム国がやがて真の国家となる可能性を論じています。今はただテロ組織に毛の生えたようなものであったとしても、このまま実効支配を続け、国家としての体裁や実力を整えていったらどうなるか。それを否定出来るだけの論拠は国際社会にあるのかと。今は歴史ある国家も、元をたどれば暴力に血塗られているところも少なくありません。というか、ほとんどでしょう。だとしたら、それとイスラム国とはどう違うのか。考えさせられるテーマではあります。


ただ、ここからは僕の考えになりますが、だとしたら、やはりイスラム国は暴力的にやり過ぎたのではないでしょうか。日本人人質の残虐な処刑。そして、中東社会でも怒りを買ったヨルダンパイロットの処刑。どうも、世界を真っ向から敵に回そうとしているとしか思えません。彼らはそれで畏怖されると思っていたのかもしれませんが、自らが潰される可能性を高めてしまっただけでしょう。本当に国家樹立が目的ならば、もうちょっとうまく立ち回らないと、承認なんかされようがありません。


ニュースによると、現在、イスラム国は後退しているといいます。世界の多くの人にとっては幸いな事に、イスラム国の夢は夢で終わるのではないかと、僕は予想しています。