「モンゴル帝国と長いその後 (興亡の世界史)」

モンゴル帝国と長いその後 (興亡の世界史)

モンゴル帝国と長いその後 (興亡の世界史)

人類史上最大の帝国を築き上げたモンゴル。その版図の威容は何度地図で見ても圧巻です。中国から中央アジア西アジア、そしてロシアまで、「あと一息で世界征服できたんじゃないか」と思わせる国は、おそらく彼らが最初で最後でありましょう。弓騎兵による侵略のイメージが強いモンゴル帝国ですが、同時に、広大な領土を参加に収めたことにより、ユーラシア大陸の東西に結びつきを生み出し、「モンゴルの平和」とも呼ばれる一時代が実現したのでした。日本ではやはり元寇のイメージが強いですが、その後は日元貿易で文化的・経済的な交流もありました。日本もちゃんとモンゴルによるユーラシア経済圏の恩恵を受けていたのですね。


さて、前置きが長くなりましたが、本書はそんなモンゴル帝国について、気鋭のモンゴル歴史家である著者が書き下ろした概説書となります。太祖チンギス・カンがまとめあげた「モンゴル」は一気に膨張して世界帝国となり、数代を経て分裂するものの、ゆるやかな連合国家として存続。やがて次第に衰亡しながらも、一部の後裔国家はなんと20世紀までその影響力を保持したのでした。モンゴル帝国というとその絶頂期ばかりに目を向けがちですが、その後も数百年に渡り世界史に影響を及ぼし続けてきた、そして現在につながってもいる。この余韻の長さ、影響力の大きさを訴えるのが、本書のタイトルである「長いその後」ということなのでしょう。僕もティムール帝国はともかく、インド・ムガル王朝までもモンゴルの後継とは知りませんでした。「ムガル」=「モンゴル」だったとは。


モンゴル軍といえばその強さがイメージされますが、著者は、実際にはモンゴル軍といえど特別に強いわけではなかったといいます。だからこそ、その戦略は慎重で、むしろ政治的駆け引きによって相手を分裂させてから攻めることが多かったのだと。また、特に欧米では強いらしい「モンゴル=虐殺」というイメージも、事実全くなかったわけではないにしろ、例外的なものであり、むしろ攻撃された側のプロパガンダである側面が大きいと解説します。モンゴルによるロシア支配を表現した「タタールのくびき」という言葉も、実際には取り立てて圧政というわけではなかったものを、ロシアの愛国心鼓舞のために、過大に苛酷さを強調していると批判しています。


ここに限らず、著者の一貫した主張は、「従来の歴史は欧米中心、海洋中心の史観であり、もっとユーラシア大陸内部の歴史を見るべきだ」というもの。たしかに、世界史を習ってもなかなか中央アジアの話なんて出てきませんからねえ。歴史に大きな足跡を残したモンゴル帝国も「たまたま調子に乗って拡大しただけ」みたいな過小評価に陥っているのだとしたら、それは残念なことです。もっとも、著者がモンゴルびいきなのも間違いないでしょうので、こっちはこっちで過度にモンゴル賛美になってるんじゃないかという疑いはもっておくべきかもしれません。


それにしても、皇帝モンケが急死せず、フレグがそのまま征西を続けていたらどうなっていたかと思っちゃいますね。


「興亡の世界史」シリーズは以前「アレクサンドロスの征服と神話」に続き久々でしたが、やっぱり面白いシリーズです。他のも読んでみたいところ。