「スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学」

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学

面白くてグングン読み進められる一冊でした。


タイトル通り、スポーツは一体どこまで遺伝子の影響をうけるのかという探求。努力が大事なのは言うまでもありません、が、現実世界のトップアスリートを見ると、たとえば短距離走ではジャマイカ人が活躍し、マラソンではケニアが席巻している。この事実を素直に見た時に、やはり「先天的な差」というものを認めずにはいられないでしょう。


俗に、「黒人がスポーツに強い」と言われたりしますが、これは大雑把にくくり過ぎで、実際は短距離走は西アフリカ出身の人々(ジャマイカなどの西インド諸島や、アメリカの黒人の多くは西アフリカにルーツがあります)が得意であり、長距離走ケニアなどの東アフリカの高地に住む人々が得意であると。さらに、ジャマイカの中、ケニアの中でもトップアスリートを生み出す地域はごく一部に偏っているというのです。一概に、ケニア人だからみんなマラソンが速いというわけではないのですね。


遺伝子のスポーツへの関わり方は多様です。身長体重はもちろんのこと、手足の長さの比率であったり、心肺能力であったり、時には不屈の精神力であったり。こうして見ていくと、結局遺伝的な才能がないとどうにもならないのかという気持ちにもなったりしますが、考えてみると、トップ選手になれるかどうかは素質が大事というのは、何も遺伝子を持ちださなくても常識的に分かっていたことであるとも言えます。それが科学で裏付けられたというだけであって。


印象的な記述としては、近頃良く目にする「1万時間の法則」についての疑義があります。これは、「何事もプロクラスに熟達するには1万時間の練習が必要である」というもので、逆に「1万時間練習すればプロになれる」といった使い方をされる時もありますが、これはあくまで平均的な話であって、実際には5000時間とか2万時間とか大きなゆらぎがあるとのこと。別に「1万時間」に特別な効果があるというわけではないようです。無論、練習が多いほど上達しやすいのは確かでしょうが。


あと面白かったのは、世界トップクラスのマラソン選手を輩出するケニアのカレンジン族の何が優れているのかという調査。てっきり心肺能力とか筋肉の構造がとか考えてましたが、一番有力なのは足の細さだというのです。足が細くて軽いほど、スタミナの消耗が抑えられると。そういえばマラソン選手ってみんな足が細いですよね。いやあ、こういう分かりやすい理由でくるとは、意外でした。