「とある飛空士への夜想曲」

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 下 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 下 (ガガガ文庫)

飛空士シリーズの第3弾。「恋歌」のアニメを見たところで、もう少しこの世界に浸りたいものだということで、手を出しました。「追憶」の主人公・狩乃シャルルを苦しめた帝政天ツ上のエース・千々石武夫の物語。巻頭で、天ツ上側から見た追憶における追跡シーンが描写されているのも心憎いところ。追憶では中途半端だった中央海戦争のその後が書かれているのも注目でした。


緒戦こそ快進撃を続けたものの、しだいに国力に勝る神聖レヴァーム皇国に押されていく帝政天ツ上の悲壮な戦い。千々石と幼なじみの歌手・水森美空とのロマンスも切ない。さすがに、安定した文章力と構成力で読ませます。


……ただ、どうしても最後まで引っかかる点もありました。それは、あまりに太平洋戦争をなぞりすぎであることです。もっと言えば、多少ドラマチックに美化された太平洋戦争です。いったいこれは「とある飛空士」シリーズというファンタジー小説なのでしょうか? それとも、太平洋戦争の架空戦記なのでしょうか? その切り分けが中途半端ではっきりしません。もうちょっとオリジナルな展開にしても良かったのではないかと思えますね。


以下、ネタバレです。


海猫ことシャルルが負けちゃいましたか……。追憶の主人公で思い入れも深いだけに、これはちょっとショック。でも考えて見れば、追憶でもファナの助けがあったから勝てたわけで、最初から1対1では千々石の方が強かったのかもなあ。まあでも、彼が生き残ってくれるだけでもうれしいです。


あと、最後のレヴァーム大艦隊のやられぶりがさすがに無能すぎないかという気はします。まあ、戦艦による空母への大攻撃というのはロマンなんですけどね。


それにしても、やはり千々石の死は悲しい。たとえそれがどんなに大きな戦果であり、偉大な貢献であったとしても、その影には悲しむ人たちがいる。嗚呼……。凡庸な言葉ですが、結局戦争そのものが悲劇としか言いようが無いですね。