「『ぴあ』の時代」
- 作者: 掛尾良夫
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/04/05
- メディア: 文庫
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株主優待の図書カードを目当てにぴあの株を買っていたら、何やら一冊の本が送られてきました。「なになに、「『ぴあ』の時代」か。自社の宣伝本かなあ。まあ読んでみるか。表紙の絵柄も懐かしいし」程度の気持ちで軽くページをめくり始めたのですが、これが深く引き込まれる一冊でありましたよ。
時は1970年代から80年代。経済史的に言えば、高度成長が終了し、安定成長からバブル経済までの約20年。そして政治史的には、学生運動が終焉を迎え、若者たちが自分たちの新しい文化を築き上げていったこの時代に、ぴあを生み出した若き創業者達の熱いドラマ。本書カバー裏面にもありますが、良い意味で「昭和の香り」を伝えてくれる物語でした。
ぴあが生まれたのは1972年。大学生だった矢内廣と友人たちによって発行された映画情報誌でした。当時はどこの映画館で何を上映しているのかを知るのにも一苦労という時代。その情報がまとまっていれば便利だと感じた、映画好きの青年の発想は見事にヒットしました。インターネット全盛の今となっては実感しにくくなってしまいましたが、想像すると、なるほど、それは歓迎されただろうと納得出来ます。
そしてぴあのすごいところは、単に雑誌をたくさん売って儲けようというレベルに留まるのではなく、自らイベントを主催し、文化の盛り上げ役になっていった点にありました。一方で、現在までつながるチケットの発券事業や、コンピュータ化にも鋭い嗅覚を発揮する。下手に文化発信にこだわると余計なコストばかりかけてバタリ、なんてことになりがちなものですが、バブル崩壊の荒波を超えて、なお収益と文化支援活動を両立していることに驚かされます。
ネットや各種雑誌の普及といった時代の変化もあって、紙媒体としてのぴあは2011年をもって休刊しました。僕は自分でぴあを買ったことは無かったですし、たまたま手にとった時もさほど熱心に読むということはありませんでした。なんだかごちゃごちゃした作りの印象でしたしね(あ、でもアニメの情報は気にしたかな)。結局僕はぴあ世代では無かったということなんでしょう。でも、本書を読んで、ぴあが多くの人々に愛された理由が理解できた気がします。
これは今更のようにぴあのファンになってしまったかも(本を送ってきた会社の目論見通りですね)。元々長期保有する予定でしたが、今後も株をホールドしつつ応援することにいたしますよ。