「中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓」

中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓

中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓

「何処も同じか」あるいは「イギリスよお前もか」という慨嘆の生じる一冊でした。


近年、ご多分にもれず格差の広がるイギリス。著者はまずロンドンの金融街・シティのエリートたちにインタビューしますが、彼らは自分たちがどれほど高給に恵まれているのか自覚もせず、貧困層の生活に思いをはせる想像力もないということが明白にされます。


一方で貧困層には世間の「自業自得」「自己責任」といった偏見の目がつきまとい(こういうのも日本だけじゃないんですね……)、十分な給付も与えられず、一度生じた格差は次世代に受け継がれ、あらたな「階級」が生じようとしているという現実が報告されます。たとえ子供に才能があっても、本当に幼い頃からの教育、環境によってその才能はあっさりと潰されてしまうという内容は衝撃的でした。たとえ小学生からでも遅いのです。


しかしそんな中でも、政府の始めたいくつかの対策は少しづつ芽吹きだしていることを著者は紹介してくれます。大事なのは単にお金を給付することではなく、自尊心と仲間を持って生きていける環境を構築すること。富裕層はすぐに「税金を払っても政府や公務員が無駄遣いする」と言いますが(それは全否定はできませんが)、それでも、政府は確かに効果のある政策を実行することが出来るのだと。これは本書の希望ではありました。


それにしても、金融危機格差社会に関する本を何冊か読みましたが、残る印象は富裕層の強欲さばかりです。すべてのお金持ちがそうだとは言いませんが、やれ政府が悪いの自由が大事だの言いつつ、結局は自分たちの懐ばかり気にしている人々のなんと多いことか。挙げ句の果てには「税金上げるなら国を出て行ってやる」と恫喝する有様。一体この「気持ちの格差」をどうすれば良いのでしょうか。気分が重くなると同時に、株式投資で一喜一憂している我が身を振り返っても、少々反省させられる思いでした。