「おおかみこどもの雨と雪」感想

オリジナル作品ということもあって、事前情報はほとんどなし。それでも細田守監督ということで鑑賞決定でした。思い起こせば細田監督の作品はノーマークだった「時をかける少女」で衝撃を受け、「サマーウォーズ」も十分楽しめました。さて、今回はどうかな、というところだったんですが、


「さすが」


というのが第一声ですかね。感動としては「時をかける少女」に及ばずというところでしたが、良作でした。以下一応ネタバレ注意で。


タイトルからしてもうちょっとファンタジーよりなのかと思ってましたが、意外なほどに現実的な世界。そんな中で「おおかみおとこ」との間に生まれた2人の子どもを育てていく主人公、花の奮闘記。


シングルマザーの話というとどうしても重くなってしまいそうですし、実際そういう場面もあるんですが、全体的に明るさを失わないのは、花の人柄と力強さでしょうね。それに、幼年期の子供たちのドタバタした様子も楽しいです。


もちろん作画演出面も充実。特に背景となる山の緑や、3人が駆け回った雪原、実在感のある古い家など、感嘆ものでした。


さて、以下ストーリーについてですが、人と狼の間を揺れ動く子供たち。幼年期は活発に野山を駆け回っていた雪が人としての道を選び、逆におとなしく田舎暮らしを嫌がっていたような雨が山の中に入っていくというのが興味深いところでしたね。雨は自分の世界、自分のやりたいことを見つけた、ということは、雪よりも一歩先に大人になったということなのでしょうか。でも、親とすればまだ10歳だし、手放したくないというのも当然で、花も最後は理屈じゃなくて懇願になっているのが印象的でした。ま、それでも出ていかれちゃうわけですが。


一方、雪の方は成長するごとに可愛くなる……というのは置いとくとしまして、最後に自分の正体を草平君に明かすことによって、また一つ親離れすると。ここのところの風にはためくカーテンの演出も心に残りました。


終わって、派手なカタルシスが残るタイプのお話ではなく、むしろ、花は一人で寂しくないかと心配になってしまうのですが、しみじみ2時間・作中の13年間を楽しめる映画だったと思います。学生での出産を花の親御さんはどう思ったんだろうとか、雨がいなくなってしまったのを社会的にはどう処理するんだろうとか(失踪扱いでしょうか? それだと悲しむふりをしないといけないなあ……)、疑問も残りますが、まあ、そのへんは些細な事でしょう。


なお、ネットでの感想を見ると、花が強すぎだとか、母性を強調し過ぎではないか、といった論点も見受けられるようです。まあ、花がへこたれないで、あまり自分自身の欲求を見せずに母親業に邁進しているというのはその通りですが、だからといって取り立てて母性を強調した映画ではないような気が、僕はしましたね。たまたま生き残ったのが女性側だったというだけで、これが人間の男性と「おおかみおんな」だったとしてもこの話は成り立ったんじゃないかなと。あえて言うなら、親の強さと愛情を描いたお話なんだと思います。


それにしても、客席を見ると老若男女幅広いことで。明らかに「なのは」とは違いましたね。オリジナル長編でこれだけ観客を取り込めるというのはすごいことです。ただ、個人的にはタイトルがいまいち覚えにくいような気がするのですよ。最初にひらがなが8つ続くのが分かりにくいうえに、「雨と雪」も、子供の名前とは最初知らなかったもので。これといった略称もまだ無さそうですしね。実は普及するにはここが少しばかりネックじゃないかと思わないでも無いです。